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2006年9月14日
株式会社日立製作所
神奈川大学

プラスチック基板製のシートディスプレイに向けた有機薄膜トランジスタ電極の印刷製法を開発

基板裏面から透過する光で反応する感光性材料の開発に成功

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、神奈川大学(学長:山火 正則/以下、神奈川大)と共同で、このたび、プラスチック基板上へ、高性能な有機薄膜トランジスタ(有機TFT:Organic Thin Film Transistor)を形成するための電極作製技術を開発しました。今回開発した感光性材料は、プラスチック基板を透過する光に反応し、撥水性から親水性に変化する感光性の有機ナノ材料*1で、この材料からなる単分子膜に電極の材料となる溶液を塗布することにより、親水性の単分子膜上のみに電極を形成することができます。新開発の感光性材料と基板の裏面から露光する方法とを組み合わせることで、下層に形成したゲート電極の位置にあわせて、上層に電極を合わせずれなしで形成することができ、トランジスタの高性能化が図れます。本技術は、薄くて曲がるプラスチック基板上への微細な高性能有機TFTの作製に道を拓くものであり、ユビキタス情報社会のキーデバイスとして期待されるシートディスプレイをはじめ、現在はシリコン基板のICチップをプラスチックで封止しているRFIDタグなどへの適用も可能な量産技術として期待されます。

  近年、次世代の薄型ディスプレイとして、薄くて軽量、簡単に持ち運びが可能なプラスチック基板を用いたシートディスプレイへの期待が高まっており、プラスチック基板上へ有機TFTを形成する製造技術の開発が活発に行われています。中でも液体材料を塗布して有機TFTを形成する印刷製法は、従来の光リソグラフィ*2を用いた製法に比べ、面積の大きな基板にも対応が容易であるため、シートディスプレイに適した低コストな量産技術として注目されています。しかし、従来の表面露光を用いた印刷製法では、薄くて折れ曲がるプラスチック基板上で、下層に形成したゲート電極にマスクをあわせることが難しいため、上層に形成されたソース・ドレイン電極の位置がずれしてしまい、トランジスタ性能が劣化してしまうという課題がありました。そこでプラスチック基板上でも高性能な有機TFTを製造可能な、印刷製法の開発が求められていました。

  このような背景から、日立は神奈川大と共同で、プラスチック基板の裏面から透過する光に反応する感光性材料を新たに開発し、基板の裏面から露光する方法と組み合わせた有機TFT電極の印刷製法を開発しました。
  新たに開発した技術の特長は次の通りです。

1. プラスチック基板を透過する長波長の光に対応した感光性自己組織化単分子膜*3

  • プラスチック基板を透過する波長350ナノメートル(ナノは、10億分の1)以上の光に反応し、光照射前には撥水性をもち、照射後には親水性に変化する新しい有機ナノ材料からなる感光性自己組織化単分子膜を開発しました。

2. 基板の裏面から露光する裏面露光法の採用

  • プラスチック基板上にゲート電極を作製後、その上に絶縁層を形成し、新開発の感光性自己組織化単分子膜を塗布して基板裏面から光を照射する方法を用いました。これにより、ゲート電極自体がマスクの役割を担い、ゲート電極の上部以外の単分子膜にだけ光があたります。ゲート電極上部は撥水性のままであり、それ以外の部分は親水性となるので、電極の材料となる溶液を塗布すると、親水性の単分子膜上のみにソース・ドレイン電極が形成されます。

3. 親水性と撥水性の格差を拡大させる露光後処理

  • 露光後に、単分子膜を市販のレジスト現像液(有機アルカリ水溶液)で洗い流すと、光を照射された単分子膜の親水性がさらに高まることを見出し、これを露光後処理に適用しました。

  今回、ポリカーボネートプラスチック基板上にゲート電極を作製後、新開発の感光性単分子膜と露光プロセス技術を適用し、さらに、上部電極材料となる液体の導電性高分子材料を回転塗布にて塗布しました。回転塗布では基板全面に液体が塗布されますが、感光性単分子膜の撥・親水性によって、ゲート電極の無い,光のあたった部分のみに上部電極が形成できました。幅20マイクロメートル(マイクロは100万分の1)のゲート電極に対し,合わせずれなしに上部電極が作製できることを確認し、開発技術の有用性を実証しました。本技術は、大面積のシートディスプレイをはじめ、RFIDタグの電子回路をプラスチック基板上に直接形成して作製するなど、量産に適した製造技術として期待されます。

   なお、本成果は、2006年9月13日からパシフィコ横浜で開催される電子デバイスと材料に関する国際会議「The 2006 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM 2006)」にて発表します。

*1
新材料は、(a)基板と結合する部位、(b)光に感じて反応を起こす部位、そして(c)水をはじく撥水性の部位からなります。光を照射しない初期状態では撥水性をもちます。光に感じて反応を起こす部位(b)には、反応後に水の濡れ性が良くなり親水性になる工夫を施しており、光を照射した部分は水に濡れる状態となります。すなわち、光を照射した後に水性の材料を塗布することによって、プラスチック基板上の光の当たった場所だけに膜を形成することが可能になります。
*2
基板全面に形成した薄膜を、さらにその上に形成したフォトレジストをマスクにしてエッチング除去して薄膜部品を形成する、半導体プロセスで用いられる部品形成方法。
*3
自己組織化単分子膜:単分子が直立し密集した状態で形成される膜。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:花輪、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 042-327-7777(直通)

以上

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