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2006年8月8日
微量のたんぱく質を測定することが可能な半導体バイオセンサチップを開発
電気的測定法を用いて従来より一桁以上小さな1ピコg/mlの濃度まで検出
株式会社日立製作所中央研究所(所長:福永 泰/以下、日立)は、このたび、試料に含まれるたんぱく質が極微量でも測定することが可能な半導体バイオセンサチップの開発に成功しました。従来、血液検査や食品の安全検査などにおいて標的となるたんぱく質の測定には、酵素免疫反応を利用し、生成された反応生成物を光学装置で測定する方法が広く使われています。今回、半導体センサチップを用いて電気的に免疫測定をする方法を新たに考案し、従来の酵素免疫測定法に比べ、一桁以上高い感度に相当する1ピコg(ピコは1兆分の1)/mlの濃度まで検出できることを確認しました。本技術は、光学装置を必要としないため、携帯が可能な小型装置として用いることに適しており、今後、医療や食品検査などの現場に持ち込み、その場でたんぱく質の測定や細菌検査などを実施することが可能な装置の実現に道を拓きます。
本開発は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「バイオ・IT融合機器開発プロジェクト」の一環として行われたものです。
健康診断で検査するたんぱく質や代謝物をはじめ、食品の安全管理や環境保全の指標となる細菌や農薬、環境ホルモンなどの測定には、抗原抗体反応*1を利用して、特定のたんぱく質(抗原)を検出する免疫測定法が広く利用されています。中でも、酵素が連結された抗体(酵素標識抗体)を用いる酵素免疫測定法*2は有効な方法として、BSE(牛海綿状脳症)の簡易検査などにも利用されています。従来の酵素免疫測定法を用いた計測では、抗体に連結された酵素によって生じる反応生成物の量を、吸光度計などの光学装置によって計測し、その結果をもとに測定対象のたんぱく質の量を求めています。そのため、光学装置が必要なことから計測装置が大型となり、医療現場や食品加工場などの現場に持ち込んで測定することができませんでした。今後、広く食品加工場や屋外などの現場で利用可能な装置を実現するためには、装置の小型化と標的たんぱく質が極微量でも計測できる技術が求められていました。
このような背景から日立は、酵素免疫反応による生成物を、半導体バイオセンサチップを用いて電気的に測定する、新しい免疫測定技術を開発しました。
開発した技術の特徴は以下の通りです。
(1)金電極を用いて酵素免疫反応の生成物を計測可能な半導体バイオセンサチップ
- 開発した半導体バイオセンサチップのセンシング部分は金電極からなり、これが電界効果トランジスタのゲートと配線で接続されています。金電極に酵素免疫反応の生成物(チオール化合物*3)が吸着すると、金電極表面の電位が変化し、これに応じてソースとドレイン間の電流値が変化します。
(2)チオール化合物を生成させる酵素免疫反応処理
- 半導体バイオセンサチップの金電極表面に吸着させるために、酵素免疫反応の生成物としてチオール化合物が生成される反応処理法を開発しました。
(3)反応生成物の金電極への吸着速度を用いた抗原(たんぱく質)濃度の定量測定
- 生成したチオール化合物が金電極に吸着する際の吸着速度が、測定対象である抗原の濃度の対数に比例することを実証しました。チオール化合物が金電極に吸着すると金電極の表面電位が変化し、この変化量速度から抗原量を定量します。また、金電極の表面電位は、電極の面積に依存しないため、測定サンプルが微量でも測定できます。
今回、多機能たんぱく質のサイトカインの一種であるインターロイキン1βを測定対象サンプルとして、試作した半導体バイオセンサチップを使った新しい測定技術の検証を行いました。その結果、1ピコg/mlの濃度まで検出できることを確認し、従来の光学装置を用いた酵素免疫測定法に比べ、一桁以上高い感度となることを実証しました。試作した半導体バイオセンサチップは、一般的な半導体プロセスで製造することが可能です。半導体チップによる電気的測定で免疫測定を行ったのは今回が初めてです。
本技術を適用した測定装置は、試料の前処理部および半導体バイオセンサチップ、測定データを処理・表示するPCで構成され、小型化と極微量な標的たんぱく質でも測定できる技術を両立することにより、医療や食品検査の現場などで持ち運びができる小型装置の実現に道を拓くものです。
- *1
- 抗原とこれに対応する抗体とが特異的に結合する反応。
- *2
- ELISA(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay)法ともよばれる検査法。サンプル中に含まれる微量の対象物(抗原)を、酵素標識した抗体を用いた抗原抗体反応を利用し、標識した酵素量を酵素反応により測定することにより、定量的に検出する方法。従来のELISA法では主として、酵素反応として呈色反応や発光反応を利用し、光学装置によって対象物の量を計測していた。
- *3
- 末端に硫黄を有する化合物。
お問い合わせ先
株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:花輪、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 : 042-327-7777(直通)
以上
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