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2006年7月14日
株式会社日立製作所
国立大学法人東京大学
超音波診断装置を用いた腫瘍の画像観察を可能にする
造影剤技術を開発
日立製作所中央研究所(所長:福永泰/以下、日立)と東京大学工学系研究科および医学系研究科(工学系研究科長:松本洋一郎、医学系研究科長:廣川信隆/以下、東大)は、このたび、共同で、超音波診断装置向けの造影剤技術を開発しました。本技術は、開発したナノ*1液滴からなる造影剤に、超音波パルスを照射することにより、腫瘍組織の画像を得るのに十分な反射信号を発するミクロンサイズ*2の気泡に相変化させる技術です。開発したナノ液滴の造影剤を用いると、従来のミクロン粒子の造影剤では血管までしか到達しなかったものを、腫瘍組織まで到達させることが可能になり、腫瘍組織そのものの画像観察ができるようになります。また、腫瘍組織の周りの血管壁は、正常組織の周りの血管壁に比べサイズの大きい物質を透過する性質があり、開発したナノ液滴の造影剤は腫瘍組織にのみ到達する大きさで作られているため、選択的に腫瘍組織を観察することができます。
なお、本開発は、文部科学省産学官連携イノベーション創出事業費補助金(独創的革新技術開発研究提案公募制度)による助成を受けて行われました。
近年、腫瘍組織を選択的に画像化し、疾患部位を早期に診断する技術として、PET*3やMRI*4を用いた画像診断が使われています。これらの技術は、腫瘍組織の診断には有効ですが、装置が大型でかつ撮影に時間がかかるため、手術室などで治療を行う際のモニタリングには不向きです。一方、小型で持ち運びができ、その場でリアルタイムに画像が得られる装置に、超音波診断装置があります。この装置は、生体に超音波を照射し、そのエコー(反響)信号を元に体内組織の画像化を行いますが、これまでは腫瘍組織を選別して画像化することができませんでした。これは、造影剤がミクロンサイズの気泡のため血管壁を通過させて腫瘍組織へ移行させることができないためです。また、造影剤を腫瘍組織の内部に到達させるのにナノサイズの気泡や微粒子を用いる方法がありますが、気泡や微粒子のサイズが小さくなると、画像化に十分なエコー信号が得られません。このため、超音波診断装置による腫瘍組織の選択的画像化を行うためには、腫瘍組織に選択的に到達させることができ、かつ、強い反射信号が得られる造影剤の開発が求められていました。
このような背景をもとに、日立と東大との研究チームでは、腫瘍組織に到達させるまではナノサイズの液滴で、その後、超音波パルスを照射してミクロンサイズの気泡に変化させるという、新原理を用いた造影剤の技術を開発しました。開発した技術の特徴は以下のとおりです。
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(1)腫瘍組織に選択的に到達可能なナノ液滴の開発 |
大気圧の2000倍(200メガパスカル)の高圧乳化処理*5により、リン脂質の膜の中にフルオロカーボンを過熱状態*6で封入したナノサイズの液滴を開発しました。フルオロカーボンは沸点が体温以下で、通常は生体内に入ると気化してしまいますが、これを液体のまま安定化させる技術を開発しました。腫瘍組織の周りの血管壁は、正常な組織の周りの血管壁に比べて、サイズの大きい物質を透過する性質があり、今回開発したナノ液滴は、腫瘍組織にのみ到達する大きさで作られているため、腫瘍組織に対する選択性を持っています。
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(2)超音波パルスを照射することでミクロンサイズの気泡に変化させる制御技術 |
ナノ液滴に、撮影時よりも少し高めのエネルギーを持つ超音波パルスを照射し、そのエネルギーで過熱状態を崩し、液体から気体へと相変化させます。液体と気体との密度差により、ミクロンサイズの気泡(マイクロバブル)が得られます。
今回、開発した造影剤技術を腫瘍マウスに適用したところ、超音波パルスを照射しない場合には超音波撮影を行っても腫瘍組織の画像は得られなかったのに対し、超音波パルス照射後に行った撮影では、腫瘍組織の画像を得ることができました。この結果、相変化する造影剤技術が腫瘍組織の選択的画像化に有効であることが実証できました。
今後は、安全性を含めたナノ液滴の構造の最適化を行うと共に、超音波照射技術の確立を行い、超音波診断装置による腫瘍組織の選択的画像化の実現をめざします。
なお、本成果は、2006年7月7日から8日に東京国際交流館(お台場)で開催される「第22回日本DDS(ドラッグデリバリーシステム)学会学術集会」にて発表しました。
図1 相変化型ナノ液滴からのマイクロバブル生成
図2 相変化型ナノ液滴によるマウス腫瘍の可視化
*1 |
10億分の1メートル |
*2 |
100万分の1メートル |
*3 |
Positron Emission Tomographyの略で、崩壊時に陽電子を放出する放射性元素を含む薬剤を体内に投与し、放出された陽電子が消滅するときに生成するガンマ線を計測して薬剤の体内分布を画像化する手法 |
*4 |
Magnetic Resonance Imagingの略で、磁場内における核磁気共鳴現象を利用することにより、主に水素原子の体内分布を画像化する診断手法。 |
*5 |
原料を加圧し、スリットを抜ける際のせん断力を用いて油相と水相とを混合し安定な分散液を調製する処理 |
*6 |
過冷却の逆の現象で、相変化がおこるはずの温度以上に達しても、もとの相を保つ状態。今回は、沸点を超えた温度で液体が液体のままである状態。 |
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お問い合わせ先
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株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:花輪、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 042-327-7777(直通)