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2005年9月26日
エクセル・オブ・メカトロニクス株式会社
日本ALS協会
株式会社 日立製作所
身体を全く動かすことのできないALS患者向け
Yes/No判定装置「心語り」を製品化
患者の脳血液量を測定してYes/Noを判定
エクセル・オブ・メカトロニクス株式会社(代表取締役:金澤 恒雄、以下エクセル)、日本ALS協会(会長:橋本 操)、日立製作所ユビキタスプラットフォームグループ(グループ長&CEO:立花 和弘、以下日立)は、このたび、ALS*1(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)の症状が進み、全くコミュニケーションをとることができないトータリーロックドイン状態(TLS: Totally Locked-in State)の患者向けに、問いかけに対するYes/Noを、脳の血液量を測定して判定する装置として「心語り」を試作、開発しました。今後は、使い勝手などを改良してエクセルが製品化し、年内に販売を開始します*2。
頭脳の働きは正常でも、瞬きや目を動かすなど身体部位を全く動かせないために、介護者の問いかけに答えられないTLSのALS患者が現在日本国内に約70人いると推定されています*3。TLSの患者がコントロールできる生体現象として脳の血液量があります。患者が安静(リラックス)状態から意図的に頭脳を働かせると前頭葉の血液量は増え、意図的に安静状態を保つと血液量に変化が起こらなくなります。この現象を活かして前頭葉の血液量変化を測定することにより、患者の意図に基づくYes/Noの答えを返す意志伝達装置の開発が可能となりました。日立では、1999年から研究・試作装置開発をスタートし、経済産業省や日本ALS協会の助成金支援を受けてエクセルが製作した「心語り」の試作装置を改良しながら、実証実験を繰り返してきました。生体現象のため個人差は生じたものの、実証実験を重ねるごとに「心語り」による正答率が向上し、実験にご協力いただいた患者のご家族から「現状の試作装置のままでよいので1日でも早く製品化して欲しい」という強い要望を受けるまでになりました。そこで、本年4月からエクセル、東京女子大学内藤正美教授、ALS協会役員、元日立製作所中央研究所伊藤嘉敏氏、日立からなる「Yes/No判定装置製品化推進プロジェクト」を日本ALS協会内に設け、実証実験で明らかになった装置の使い勝手の改良などに取り組んできました。今後、モデルデータをユーザーが簡単に追加・削除できるようにして患者の状態変化に対応可能にする改良などを加えて、年内にエクセルが製品化します。100%の正答率が得られる保証はないものの、重要な質問は何度も繰り返して同じ回答が得られることを確認するなどの工夫により、TLSの患者と家族などの介護者との間でコミュニケーションを取る装置として活用できると考えています。
*1 |
ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)とは、運動神経が侵され、筋肉の萎縮が起こる進行性の神経筋難病です。初期症状としては、足がもつれる、口がうまくきけないなどの症状が起こり、症状が進むと、歩けなくなったり、筆談や発語、さらには呼吸ができなくなります。病気が進行しても考えたり、相手の言う事を理解することなどは障害されませんが、意志表示が難しくなるというコミュニケーション障害は療養上の大きな問題となります。病気の原因も治療法も不明で、厚生労働省の「特定疾患」に指定され、全国で約7,000人の患者がいるといわれています。 |
*2 |
本製品は日常生活用具給付事業の対象製品の一つ(重度障害者用意志伝達装置)となる可能性がありますが、対象になるかどうかは都道府県の判断によるため、詳細は各自治体へのお問い合わせが必要になります。 |
*3 |
全ALS患者数の約1%(日立推定) |
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開発の経緯 |
1999年6月に、TLSの患者の介護をしている家族から「自分の介護の良し悪しについて『はい』『いいえ』だけでよいから答えを知りたい」という依頼が日立にありました。日立では、光による脳血液量測定技術を有しており、また、自社製の重度障害者用意志伝達装置「伝の心」を、症状が進行して使えなくなる患者にも使用してほしいという思いもあり、同年7月から研究を開始しました。
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「心語り」の特徴 |
本製品では、患者がYesと回答したい時は暗算や頭の中で歌を歌う等により、脳を活性状態に変化させます。活性状態にすることにより酸素の消費が必要となり、前頭葉に血液が集まります。この血液量の変化を測定し、血液量が増えると「心語り」は「はい」と回答します。一方、Noと回答したい時はリラックス状態を続けます。血液量が変わらないので、「いいえ」と回答します。
(1) 血液量の測定
血液量の測定には、人体を透過しやすい近赤外光を使います。頭蓋骨を通して光を脳に送ると、脳の表面付近で散乱され、光の一部が頭蓋骨を通って戻ってきます(図1参照)。戻ってくる光量(検出光量)が減るのは、血液量が増加し、増加した血液に光が吸収されるからです。逆に、検出光量が変わらないのは、血液量も変わらないことを意味します。この様に、検出光量と血液量の増減は逆の関係にあります(図2参照)。測定は「安静期間」「回答期間」「安静期間」の3区間からなります。最初の「安静期間」は計測を始めるための準備期間であり、「回答期間」はYes/Noの回答を得る区間、最後の「安静期間」は「回答期間」とのデータ変動の差異を見る区間です。各区間は12秒あり、一つの回答を得るのに36秒かかります。
(2) 本製品の構成
装置は(a)額装着部(b)制御部(c)「Yes/No判定プログラム」の格納されているパソコン、からなります(図3参照)。(a)額装着部は伸縮性のあるベルトで患者の額に固定します。光源として発光ダイオードを使用し、検出光量の測定にはPINフォトダイオードを使用します。(b)では検出光量を電気信号に変換します。検出光量の変化データをUSB接続のパソコンに送り、(c)判定プログラムでYes/Noを判定します。
判定プログラムでは、血液量の変化における「振幅とゆらぎ」に着目します。頭を使う場合には血液量の変化の振幅が大きく、揺らぎ回数は少ない傾向が一般に見られます。リラックスした状態が続くと血液量の変化の振幅は小さく、揺らぎ回数は多くなります(図2参照)。この傾向は個人差があるため、あらかじめ各人ごとにモデルデータを計測しておきます。頭を使った時とリラックスした時それぞれの脳血液量の変化データを計測して、これらのモデルデータを振幅と揺らぎの2軸座標にプロットすると、YesデータとNoデータが分離されて、Yes領域とNo領域に分けられます(図4参照)。この領域のどちらに計測データがプロットされるかにより、Yes/Noの判定をします。「心語り」の初期の試作機では、振幅のみでYes/Noの判定をしていたので正答率が60%程度でしたが、振幅と揺らぎによる測定方式に改良して正答率を80%程度に向上しました。
なお、本製品は、東京ビッグサイトで行なわれる国際福祉機器展(9月27日〜29日)に出展します。
図1. 脳血液測定の原理
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図2. 測定データと判定結果
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図3. 測定装置
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図4. モデルデータによるYes/Noの判定領域
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ALSに関するお問い合わせ先 |
日本ALS協会 本部事務局 [担当:柳田、荒川]
〒102-0073 東京都千代田区九段北1-15-15 瑞鳥ビル1F
TEL : 03-3234-9155 (直通)
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製品に関するお問い合わせ先 |
エクセル・オブ・メカトロニクス株式会社
〒177-0052 東京都練馬区関町東二丁目14番4号
TEL : 03-3928-8599 (直通)