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2005年7月15日
大阪大学大学院医学系研究科
株式会社 日立製作所

光トポグラフィを用いてアルコール摂取後の脳活動の画像化に成功

アルコール代謝に関わる遺伝子型によって視覚刺激に対する脳血流量の変化に違い

 

  大阪大学大学院医学系研究科(教授:森本兼曩:もりもとかねひさ/以下、大阪大学)*1と、日立製作所基礎研究所(所長:長我部信行/以下、日立)は、このたび、アルコール摂取後の脳血液量増加の程度に、アルコール代謝に関わる遺伝子型によって違いがあることを、光トポグラフィ装置を用いた脳機能の画像計測によって、世界で初めて測定することに成功しました。今回の実験結果は、時間経過に伴う脳血液量増加の程度が、代謝に関わる遺伝子型によって異なることを初めて明らかにしたものであり、代謝物の脳機能への影響を、脳血液量変化から捉えられる可能性を示しました。今後、薬物や体内で生成された代謝物が、脳機能や生体にどのような影響を及ぼすかを解明していく上で、重要な成果といえます。
  なお、本成果は、米国の精神医学研究誌(Psychiatry Research:Neuroimaging;The Official Publication of the International Society for Neuroimaging in Psychiatry)のVol.139, Issue. 1に掲載される予定です。

  最先端の脳科学研究では、薬物や体内で生成された代謝物が、脳機能にどのような影響を及ぼすかを解明する取り組みが進められています。体内では酵素の働きで物質の代謝が進みますが、その働き方は遺伝子型で決まります。このため、薬物や代謝物による影響を調べる際には、被験者の持つ、代謝に関わる遺伝子のタイプを考慮して調べることが重要です。さらに、時間経過に伴う影響を知るために、長時間にわたって脳活動の変化を調べることも重要です。
  近年、脳機能の画像計測法*2が発展し、個々の外部刺激と脳活動の関連を明確に分析できるようになってきました。日立製作所が開発し、日立メディコが製造・販売する光トポグラフィ装置*3は、近赤外光を頭皮上から照射して脳活動に伴う局所的な脳血液量変化を画像化できる装置です。被検者は装置に固定されずに計測用の専用キャップをかぶるだけで脳血液量変化を計測できるため、時間経過に伴う脳活動の変化を調べるのに適しています。

  今回、大阪大学と日立の研究グループは、光トポグラフィ装置を使い、アルコールを摂取した際に生じる代謝物(アセトアルデヒド)による脳活動変化の測定を試みました。アセトアルデヒドの代謝に関わる遺伝子型には、アセトアルデヒドの分解酵素の働きが強い活性型と、働きが弱い低活性型、全く働かない不活性型があることが知られています*4。今回、それぞれの遺伝子型をもつ被験者(活性型6名、低活性型4名)を対象に、体重1kgあたり0.4mlの純アルコール量を摂取してもらい、摂取20分前、摂取直後、20分後、40分後、60分後の各時間帯に約10分間の視覚刺激を与え、脳の視覚機能に関わる部位の脳血液量の変化を計測しました。

  計測の結果、低活性遺伝子型の被験者では、視覚刺激を加えた時の脳血液量が、飲酒前に比べ飲酒後には増加することがわかりました。さらに、その脳血液量の増加の程度を統計処理で詳しく解析すると、飲酒前と比較して、 1. 飲酒60分後にかけて徐々に脳血液量が増加すること、 2. 飲酒20分後の測定では、視覚刺激を加えて脳血液量変化が起こるまでの時間が短くなることがわかりました。今回の計測結果により、アセトアルデヒドの分解酵素の遺伝子型によって、視覚刺激に対する脳血液量の増加の程度が、アルコール摂取後の時間経過に伴って異なることが世界で初めて明らかになりました。

  この結果から、一般にアルコールに弱いといわれている低活性型の遺伝子を持つ人は、体内でアセトアルデヒド濃度が上昇することで、脳機能および生体に影響を受けていると考えられます。
  今回の実験結果は、時間経過に伴う脳血液量増加の程度が、代謝に関わる遺伝子型によって異なることを初めて明らかにしたものであり、代謝物の脳機能への影響を、脳血液量変化から捉えられる可能性を示しました。今後、個人の体質に合わせた薬の研究開発などにおいて、薬物や体内で生成された代謝物が、脳機能や生体にどのような影響を及ぼすかを解明していく上で、重要な成果といえます。

脳血液量変化率(%)
 
 

脚注

 
 
*1 所属:大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学講座環境医学教室、〒567-0871大阪府吹田市山田丘2-2-F1、TEL : 06-6879-3920
*2 脳機能の画像計測法:脳には特定の機能が決まった部位に存在する“機能局在”という特性があり、脳の局所的な部位の活動を計測することで、個々の刺激と脳活動の関係を分析することが可能です。
*3 光トポグラフィ装置:光トポグラフィで用いる近赤外線は、光子エネルギーが低いため人体に対して、基本的に安全であり、かつ良く透過します。そのため、頭皮上から照射すると、頭皮・頭蓋骨を透過し大脳で反射してきた光を再び頭皮上で検出することが可能です。そして、この近赤外線は血液中に含まれる色素タンパク質であるヘモグロビンに吸収されるため、反射光強度を計測することにより脳内の血液量変化を計測することができます。脳は、活動した部位で血液量が増加することが知られていますが、光トポグラフィを用いると、この局所的な脳血液量変化を多点で完全に同時計測でき、脳活動を画像として観察できます。
*4 アルデヒド脱水素酵素(Aldehyde dehydrogenase:ALDH2):アルコール代謝後に生成されるアセトアルデヒドを分解する酵素。このアルデヒド脱水素酵素の働きは、遺伝的に活性型と低活性型、不活性型に分かれています。活性型ではアセトアルデヒドが分解されるため、お酒に強く、低活性型ではお酒に弱いタイプと言えます。日本人(モンゴロイド)の場合、お酒に強い活性型が50%弱、お酒に弱い低活性型が40%、全くお酒が飲めない不活性型が数%います。
 
 

お問い合わせ先

株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:内田、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 : (042)327-7777 (ダイヤルイン)

 
 

以上

 
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