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未知の蛋白質や代謝物を従来より一桁高い精度で解析する
質量分析技術の開発に成功
疾病メカニズムの解明や新薬の創生に寄与
株式会社日立製作所(執行役社長:庄山悦彦/以下、日立)は、株式会社日立ハイテクノロジーズ(執行役社長:林將章/以下、日立ハイテク)と共同で、体外診断や新薬の創成に向けて、蛋白質や代謝物*1などの疾病に関連する分子を、従来より一桁高い精度で解析する質量分析技術を開発しました。本技術は、蛋白質や代謝物を高感度で検出することが可能なリニア・イオントラップ方式(以下、リニアトラップ)と、これらの質量数を高精度に決定することが可能な飛行時間型質量分析方式(Time of flight/以下、TOF)の二つの質量分析技術を世界で初めて融合した「リニアトラップTOF融合型質量分析技術」です。これまでの技術では整合が困難であったリニアトラップとTOFの結合部に、イオンを収束させる衝突減衰器を新たに加えることによって、二つの質量分析技術の融合を実現しました。また、従来の技術では見過ごされていた微量な蛋白質を解析する独自の情報処理技術も備えています。この技術によって、疾病の予兆となる分子をより正確に探索・解析することが可能となり、疾病メカニズムの解明や新薬の創生の飛躍的な進歩が期待されます。
なお、本開発の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)助成事業「バイオ・IT融合機器開発プロジェクト」の一環として行われたものです。
遺伝子情報に基づいて体内で生成される蛋白質や代謝物が人々の健康状態や疾病に直接的に関与することが明らかになり、それらの構造を高感度かつ高精度に解析する質量分析装置の重要性が高まっています。高感度の質量分析装置として、近年、リニアトラップが注目されており、この方式は、従来のイオントラップ方式に比べて約10倍の高感度で測定が可能であるという特長があります。しかし、質量数の測定精度は数10〜数100ppm程度であるため、精度5ppmという高い測定精度が必要な未知の蛋白質や代謝物の解析には不十分でした。
このような背景から、今回、日立はリニアトラップの高感度性能を維持しながら、測定精度5ppmを実現する、リニアトラップとTOFを融合した「リニアトラップTOF融合型質量分析技術」を世界で初めて開発しました。開発技術は、以下の通りです。
(1) リニアトラップ・TOF融合型質量分析技術
高感度の検出に優れたリニアトラップと、高精度の質量数決定に適したTOFを組み合わせることにより、高感度でかつ5ppmの高精度質量分析が実現できます。しかし、リニアトラップとTOFを単に結合しただけでは、結合部分で試料イオンが拡散してしまうため、高精度のTOFの分析が困難でした。そこで、結合部に、TOFの分析に十分なイオンを収束する衝突減衰器を新たに加えました。これにより、世界で初めてリニアトラップとTOFとを結合した高感度・高精度質量分析技術を実現しました。
(2) 微量成分の解析を飛躍的に向上するリアルタイム内部データベース登録技術
多くの種類の蛋白質成分を分析する際、微量な成分は量が多い成分に隠れて見過ごされる傾向にあります。そこで、量が多い成分の分析データを自動的に内部データベースに登録し、分析の重複を防止する技術を開発しました。これにより、従来見過ごされていた微量な成分の解析が飛躍的に向上します。本技術を用いて、酵母細胞抽出サンプルを分析した結果、従来の技術に比べて約3.5倍もの蛋白質を識別し、その効果を実証しました。なお、本技術は、NEDO助成事業で開発した成果です。
本技術は、糖鎖*2、糖タンパク*3、代謝物質などの複雑な分子構造を持つ疾病関連分子の構造を決定することができるという特長があります。今後、ゲノム創薬に向けて、疾病メカニズム解明から新薬創生、早期診断のための生体内の分子標識など、様々な生体関連物質に対応した質量分析への応用が期待されます。
なお、本技術は、日立ハイテクより、2005年4月から製品化される予定です。また、5月25日からさいたま市にて開催される日本質量分析学会第53回質量分析総合討論会、6月6日から米国テキサス州サンアントニオで開催される第53回米国質量分析会議にて発表する予定です。
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質量分析技術の説明 |
- イオントラップ方式:
真空中にて、イオン化した試料を保持することを特長とする質量分析装置。保持した対象試料分子を繰り返し分解(断片化)することで、分子種を高い確度で識別する機能を持つため、複雑な分子構造を持つ分子種の分析に有効です。
- リニア・イオントラップ方式:
イオントラップ方式の1種。イオン捕捉領域が線形(リニア)であり、従来のイオントラップに比べて感度が1桁高いという特長があります。
- 飛行時間型質量分析方式:
イオン化した試料分子を電場で加速し、検出器に到達する時間により、試料分子の質量数を分析する方法。重い分子ほど遅く、軽い分子ほど早く検出器に到達します。
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用語説明 |
*1 |
代謝物:蛋白質や薬などが生体内にて化学変化した後に生成される物質。 |
*2 |
糖鎖:糖の分子が複数結合した高分子。 |
*3 |
糖タンパク:糖鎖がタンパクと結合したもの。癌など多くの疾病の発病が糖タンパクと関連していると考えられています。 |
| | お問い合わせ先 |
株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:内田、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : (042)327-7777 (ダイヤルイン)