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2005年2月25日
国立大学法人東京大学
株式会社日立製作所

フォトニック結晶を用いて光ファイバを透過する
高速光信号の劣化修復に成功

40Gb/s光伝送実験システムで実証

 

  東京大学生産技術研究所ナノエレクトロニクス連携研究センター(センター長・教授:荒川泰彦/以下、東大)と日立製作所中央研究所(所長:西野壽一/以下、日立)は、40Gb/s光伝送実験システムにおいて、光ファイバを透過する速度が光の波長によって異なるために生じる信号劣化(光ファイバ分散)を、フォトニック結晶を用いて修復することに成功しました。本成果は、フォトニック結晶が基礎研究段階から、将来の基幹系(都市間)およびメトロ系(都市内)に向けた長距離光ファイバネットワークに不可欠な実用的な分散補償素子としての道を拓くものです。
  なお、本開発は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の高度情報基盤に関するプログラム「フォトニックネットワークデバイス技術開発プロジェクト」ならびに、文部科学省の世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクトのひとつである「光・電子デバイス技術の開発プロジェクト」のもとで行われました。

  フォトニック結晶とは、屈折率の異なる2つ以上の領域が周期的に並べられた構造体で、その概念は1987年にE. Yablonovitchによって提唱されました。近年、光通信の分野において、フォトニック結晶が持つ多彩な特性*1を利用し、光の進む方向や強度を制御することで、従来にはない超小型の光デバイスや光集積回路の実現に向けて研究開発が進められています。その一つとして、40Gb/s以降の高速光ファイバネットワークで課題となる光ファイバ分散(光ファイバを透過する速度が光の波長によって異なるために生じる信号劣化)を修復する分散補償素子への適用が期待されています。これは、フォトニック結晶が波長によって光の透過スピードが異なる特性を持つことを利用するもので、また、小型であるため、他の光部品との集積にも適することが期待されます。

  このような背景から、今回、東大と日立との研究チームでは、次世代の40Gb/s光伝送実験システムを使い、フォトニック結晶を用いた分散補償素子を開発しました。

  開発した技術の詳細は以下の通りです。

 

(1) 波長分散効果の高いフォトニック結晶

劣化した光信号波形を高精度で修復するためには、波長分散効果*2の大きいフォトニック結晶が必要です。今回、結合欠陥型フォトニック結晶*3が大きな波長分散効果を持つことを初めて見出し、用いる膜の材料や厚さ、数、間隔など、構造を最適化しました。

 

(2) 40Gb/s光伝送実験システムによる評価

光源として半導体レーザからなる連続光源とリチウムナイオベイト(LiNbO3)光変調器を組み合わせた高速光変調システムを適用し、40Gb/sでの分散補償の評価を実現しました。

  伝送速度40Gb/sで4.5kmの光伝送実験を行った結果、光信号波形の品質を示すアイパターンの劣化が、フォトニック結晶を用いた分散補償素子によって修復されたことを確認しました(添付図参照)。これは、70-100ps/nm*4の分散を補償したことに対応し、40Gb/s光伝送システムにおいて十分にフォトニック結晶が分散補償素子として使えることを示しています。この結果は、光通信の波長領域で光の透過率が一定で、かつ波長分散効果が高いフォトニック結晶を実現したことによるものです。このように、今回フォトニック結晶の分散補償素子としての有用性を実験的に初めて示すことができました。
  今後は、素子の最適化をさらに進めて、分散補償量をより大きくするとともに、その素子を用いた光部品の最適な構成の開発に取り組む予定です。

アイパターンの変化
 
 

用語説明

 
 
*1 フォトニック結晶の持つ特性:
  1.バンドギャップの存在を利用し、非常に高い効率で光を閉じ込められる、2.光を急角度に自由に曲げられる、3.バンドの形を自由に変えることができ、光の進むスピードを極端に遅くしたり、波長によって光の進むスピードを大幅に変えることができるなどの特性を持っています。
*2 波長分散効果:
  波長によって光の進むスピードが大幅に変わる効果です。
*3 結合欠陥型フォトニック結晶:
  周期的な構造中に周りと違う形、材質等を形成したものを欠陥と呼び、光の共振器になっています。この欠陥間の間隔が小さい構造のフォトニック結晶を、結合欠陥フォトニック結晶と呼びます。欠陥からしみ出した光が隣の欠陥からしみ出した光とオーバーラップし、それを介して、欠陥から欠陥へ光が乗り移ることができます。このときのスピードが波長によって大きく変わる(波長分散が大きい)ことを見い出しました。
*4 ps/nm:
  分散量の基本単位で、単位波長当りの光のスピードの変化を示します。
 
 

お問い合わせ先

株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:内田、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : (042)327-7777 (ダイヤルイン)

 
 

以上

 
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