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2005年2月10日

DNAの一塩基の違いを検出する
アンテナ搭載型RFIDセンサチップの開発に成功

溶液中の複数チップを識別する輻輳制御技術も同時開発

 

  日立製作所(執行役社長:庄山悦彦/以下、日立)は、このたび、遺伝子塩基配列の一塩基の違い(一塩基多型、SNPs: Single Nucleotide Polymorphisms)を検出することができる外形2.5mm角のRF-ID*1センサチップを開発しました。本チップは、水溶液中でも動作が可能なため、DNA試料溶液中で検出したSNPsのデータを、密閉状態を保ったままで試料容器の外側から無線リーダで読み取ることができます。また、複数のチップを識別する輻輳制御技術を開発し、複数データの同時収集も可能としました。今後、個人の体質に合わせた健康管理や医薬品処方を行うテーラーメード医療の現場で、簡便な計測技術として普及が期待されます。本開発は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「バイオ・IT融合機器開発プロジェクト」の一環として行なわれたものです。

  ヒトの全DNA情報を解読するヒトゲノム計画が終了し、現在、個人の体質に応じた医療(テーラーメード医療)の実現に向け、個人の体質形成の要因となるSNPsデータベースの整備が進められています。今後、これらのデータベースを活用し、医療現場で個人の体質に合わせた健康管理、医薬品処方、治療などが実現されれば、治療効果や安全性の向上、医療コストの低減などが期待できます。DNAシーケンサやDNAチップ*2に代表される従来の装置は、一度に多量のDNAを解析する目的には向いているものの、大型かつ高価であるため、テーラーメード医療には適しているとは言えませんでした。病院や診療所などの医療現場でSNPsの計測を普及させるためには、新たに小型、簡便、安価な計測システムの開発が必要です。

  このような背景から日立では、シリコンチップ上に光センサ、信号処理回路、無線通信機能を組み込んだ小型で安価な、 RFIDセンサチップを開発しました。開発した技術は以下の通りです。

 

(1) SNPsの計測が可能なRFIDセンサチップ

2.5mm角のシリコンチップ上に、生物発光*3検出用の光センサ、信号処理回路および通信制御回路、アンテナコイルを集積したRFIDセンサチップを開発しました。本チップは、汎用のLSIプロセスで製造することができます。SNPsの検出は、チップをDNA試料溶液中に投入し、容器の外側から無線リーダで電磁波を照射して回路を駆動させ、塩基配列の違いによって変化する生物発光反応を計測することによって行われます。

 

(2) 溶液中の複数チップを識別する輻輳制御技術*4

DNA試料溶液中でも安定動作するように、センサチップに電気的絶縁構造を採用しました。さらに、一つのリーダで、各センサチップのID番号を識別して、一括して複数の計測項目のデータを収集する輻輳制御機能を組み込みました。DNA試料は密閉された状態のまま測定できるため、測定のためにDNA試料をハンドリングすることによって生じる汚染を防ぐことができます。

  試作したRFIDセンサチップを用いて、容器の外側からDNA試料溶液中の生物発光計測によるSNPs検出に成功しました。また、SNPsの検出に加えて、温度やpHなどを計測するセンサチップも同時に開発しました。これらのチップを用いれば、測定時の条件もモニタリングすることができるため、高精度な計測が可能になります。
  今後は、この計測システムを使って、様々なSNPsを対象とした実証実験を行い、実用化を目指します。

  本技術は、2月6日から米国サンフランシスコで開催された国際固体素子回路会議「2005 IEEE International Solid-State Circuit Conference(ISSCC 2005)」で2月9日に発表しています。

 

用語

 
 
*1 RFID:Radio Frequency Identification, 大きさが数ミリ程度のICチップと、データを送受信するためのアンテナを内蔵したタグ。ICチップは、モノを識別するための情報などを格納でき、無線を使って読み出すことができる。
*2 DNAチップ: 特定の配列をもったDNAを検出するために、一つの基板上に種々の塩基配列をもった一本鎖DNA(プローブ)を高密度に配列し、試料溶液中のプローブと相補的な配列をもつDNAを結合して捕獲する。結合したDNAはスキャナと呼ばれる蛍光計測装置によって検出する。
*3 生物発光:今回採用した生物発光は、蛍の光で知られているルシフェリン/ルシフェラーゼ発光系である。この系をDNA伸長反応に応用することにより、SNPの有無を検出することができる。検出の手順は、最初に、目的の遺伝子に対して相補的な配列を有するプローブを結合させ、DNAポリメラーゼで伸長反応を起こす。SNPサイトが目的の塩基と一致する場合には、伸長反応が起こり、ピロリン酸が生じる。生じたピロリン酸を酵素(ATPスルフリラーゼ)でATPに変換する。変換されたATPにより、ルシフェリン/ルシフェラーゼ発光系でルシフェリンが酸化されて青緑(波長520nm)の光が放出される。その際の発光の有無を計測することにより、SNPを検出することができる。
*4 輻輳制御:複数のRFIDチップと無線リーダとの通信においてデータの衝突を回避して一括処理を可能にする技術。
 
 

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:内田、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (ダイヤルイン)

 
 

以上

 
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本文ここまで


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