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2004年10月29日
LSIの消費電力約50%以上低減する回路技術を開発
基板バイアス制御技術の温度依存性の解消に成功
日立製作所中央研究所(所長:西野壽一)は、このたび、LSIの消費電力を低減する有力な回路技術である"順方向基板バイアス(Forward-body-bias、以下基板バイアス)を用いて、動作温度に依存しない低消費電力回路の開発に成功しました。これによって、基板バイアスの欠点であった温度上昇時のLSIの速度低下が解消されるため、あらゆる温度範囲で低電圧動作を可能とします。この結果、基板バイアスの導入前に比べて、LSIの消費電力を半減することができます。開発技術は、モバイル機器で要求されているLSIの低電力化に寄与する基本回路技術です。
モバイル機器に要求される消費電力の抑制を実現するためには、ディスプレイや通信の低電力化とともに、機器の頭脳として働いているLSI(大規模集積回路)の低消費電力化が大切です。LSIを低消費電力で駆動するために開発された回路技術の中で、基板バイアス制御技術は、速度劣化なしに消費電力を大きく低減できます。日立では、2000年にシステムLSI向け基板制御技術を開発して以来、低消費電力回路分野のトップランナとして新技術の研究開発を進めています。しかし、基板バイアスには、温度依存性があり、高温で速度劣化が起きるという課題がありました。しかし、現在まで、この原因は解明されていないため、消費電力の低減効果を犠牲にして高温で性能劣化がおきない条件で導入していました。
このような背景から、今回、日立では、基板バイアスによる温度依存性の原因解明に成功し、「温度変化に依存しない基板バイアス制御技術」を提案しました。開発した技術の概要は以下の通りです。
- 基板バイアスの温度依存性の解明
基板バイアス制御をすることによって、通常は動作しない寄生トランジスタ(構造上存在してしまうトランジスタ:バイポーラトランジスタ)が回路動作し、電流が増えてしまうことを見出しました。これを実証するために、寄生トランジスタを積極的に駆動する回路を試作し、その特性を調べたところ、弊社が発見した温度依存性モデルが正しいことがわかりました*1。
- 温度依存性のない基板バイアス技術の開発
実験回路によって基板制御の温度特性が解明されたことを利用して、温度に対して最適な電源電圧と基板バイアスをLSIに供給する制御方式を開発しました。LSIの回路部分に、「温度センサ」、各温度に対応した最適な電源電圧、基板バイアスを書き込んだ「参照テーブル」を新たに加えました。温度センサで検出した温度に応じて参照テーブルから最適な電源電圧、基板バイアスをLSIに供給する方式です。
従来の基板制御は速度劣化の無い条件で、消費電力を25%削減することができますが、今回開発した温度変化に対応した本基板制御方式を適用すると、さらに消費電力を28%削減することがきるため、合計で50%以上の低消費電力化を実現できます。本技術は、これまで研究開発されてきた基板バイアス技術の限界を突破し、新たなLSIへの応用展開を牽引する新回路技術と言えます。
なお本内容は、2004年9月20日からベルギー、ルーベンで開催される「欧州固体素子回路会議(ESSCIRC:European Solid-State Circuits Conference)」で発表しています。
*1 |
MOSトランジスタに構造上寄生するバイポーラトランジスタは通常のLSI動作では影響を与えませんが、FBB制御されたLSIではバイポーラトランジスタは回路動作し、電流が増大します。我々はこれがFBB制御の温度依存性の原因だということを見出しました。このFBB制御特性を解明するために、寄生バイポーラトランジスタが回路動作し、LSIに影響を与えるという『強弱デュアルバイポーラモード』を提案しました。寄生している2種類のバイポーラトランジスタはMOSトランジスタ構造から本質的にベース幅に差があり、電流増幅率が1桁異なります。強弱デュアルバイポーラモードを用いた解析では、FBB制御特性を決めるLSIの電源電流と基板電流が、それぞれ異なるバイポーラトランジスタの特性で決定されます。
0.13m CMOSテクノロジで試作した評価チップの実測は、強弱デュアルバイポーラモードを用いた解析とほぼ一致し、本モードの妥当性を裏付けました。
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以上