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2004年3月2日
財団法人電力中央研究所
株式会社日立製作所
大規模構造物の耐震性を評価する
「ハイブリッド耐震試験技術」を開発
−部分構造物の振動試験と非線形FEM解析を連携−
財団法人電力中央研究所(理事長:佐藤太英)、株式会社日立製作所(執行役社長:庄山悦彦)は、株式会社日立インダストリイズ(取締役社長:石津尚澄)と共同で、 部分構造物の振動試験(以下:準静的載荷試験)と、残りの構造部分の数値解析(以下:非線形FEM*1)解析)を組み合わせたハイブリッド耐震試験技術を開発しました。これにより、原子力機器、橋梁、高層ビルなどの大規模な構造物に対して、塑性変形領域*2)での挙動予測を比較的小規模な実験で行えるようになりました。今後、各種の大規模構造物の耐震性向上に寄与するものとして期待されます。
兵庫県南部地震(1995年)では高層ビルや高架橋などに想定外の破壊現象が発生し、塑性領域での構造物の挙動を十分な精度で予測できない場合があることが指摘されました。このような課題に対し、振動台試験のように構造物全体を振動させて破壊現象を再現し、塑性領域での挙動を解明する方法があります。しかし、振動台試験には構造物の大きさや質量の制限がありますので、すべての耐震試験を実施できるものではありません。このためハイブリッド試験と呼ばれる試験手法が用いられてきました。このハイブリッド試験では構造物を部分構造物と数値モデルとに二分し、部分構造物の試験と数値モデルの解析とを両者の境界面でデータを受け渡ししながら連携します。
しかし、従来のハイブリッド試験技術には2つの課題がありました。第一点は計算機の能力の制限などから数値モデルとして、構造物を簡略モデル化した単純なばね・質点系しか取り扱えなかったことです。第二点は振動試験と数値解析と、別々に結果が得られるため、構造物全体の挙動を総合的に理解しにくかったことです。
このような背景から、財団法人電力中央研究所、株式会社日立製作所は、構造物の形状をほぼそのままの形で数値モデル化でき、かつ、構造物全体の挙動をビジュアルに把握できるハイブリッド耐震試験技術を開発しました。本技術の内容は以下の通りです。
(1) 振動試験と非線形FEM解析の連携技術
多次元の振動試験が可能な試験機と、複雑な構造やさまざまな材料特性を扱える非線形FEM解析を実行する計算機とをネットワーク接続し、数値解析を1ステップ実行する毎に両者の間でデータを受け渡しながら、非線形FEM解析と準静的載荷試験を連携する技術を開発しました。これにより、従来は数自由度*3)であった数値モデルの規模を一気に数千自由度まで拡大することが可能となりました。
(2) 統合可視化技術
部分構造物に設置した多数のセンサの計測値とFEM解析結果を合成し、構造物全体の変形形状やひずみ分布をコンピュータグラフィックスにより可視化する技術を開発しました。これにより、構造物全体の挙動をビジュアルに把握することが可能となりました。
今回、プラント等に設置される配管系を対象に、曲管部を含む部位を実構造物とし、延長管や弁・サポート等を有限要素法による数値モデルとして、構造物全体に地震波を作用させ、曲管部を弾性範囲内及び、塑性範囲まで変形させることによって、連携技術の成立を確認しました。
また、財団法人電力中央研究所、株式会社日立製作所は部分構造物に設置した変位計とひずみゲージの計測値、ならびに、数値解析結果を同時可視化し、統合可視化技術の有効性を確認しました。今後、本システムが耐震試験に適用されて構造物の耐震性向上に寄与することが期待されます。
本技術は、財団法人電力中央研究所が現在進めている研究設備「ハイブリッド動的力学試験システム」の耐震試験の要素技術として組み込まれ、実用化される予定です。また、本技術は2004年3月4日および5日に土木学会により開催される「第5回 構造物の破壊過程解明に基づく地震防災性向上に関するシンポジウム」にて発表いたします。
【注釈】 |
*1) |
FEM:有限要素法、Finite Element Methodの略、有限要素法とは、構造解析の一般的な手法で、対象となる物体を、様々な形(例えば三角形、四角形、六面体など)に分割して解析する方法。複雑な形状の物体を単純な形に分解して分析し、最後に全部を組み合わせることにより、複雑な形状をした物体の変形が計算できる。 |
*2) |
塑性変形領域:金属が弾性変形の限度を超える力を受けた場合に、元の状態に復帰しなくなる塑性変形をする変形領域。 |
*3) |
自由度:構造物の挙動を数値計算する上で、用いられる運動方程式の数。自由度が大きければ大きいほど、計算の精度は向上する。 |
以上