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2004年1月21日
超電導材料MgB2を用いたNMR装置用高周波アンテナ素子を開発
日立製作所(執行役社長:庄山悦彦 以下:日立)は、急速に進歩しつつある先端計測分野において、タンパク質の立体構造を解明する有力な計測装置として注目されている核磁気共鳴装置(以下:NMR装置)*1で、試料の原子核からの信号を受信するプローブに使用されるアンテナ素子を、新しい超電導材料である二硼(ほう)化マグネシウム(以下:MgB2)*2を用いて試作し、高い周波数の帯域で優れた共振特性*3を示すことを実証しました。これにより、NMR装置の飛躍的な高性能化が実現可能となります。
人間の全遺伝子情報がほぼ解読されたのを受け、これまでにない新しい医薬品の開発につながる、タンパク質の構造解明が注目されています。そこで、より大きく、かつ、構造が複雑なタンパク質の解析を可能とするNMR装置の開発が重要課題となっています。これまでは、磁場の強さを向上させることにより、NMR装置の高感度化を図ってきましたが、強力な磁場を発生する超電導磁石の性能は、限界に近づきつつあります。
そこで、日立はNMR装置のさらなる高感度化を図るため、2001年に青山学院大学の秋光純教授のグループにより発見された新超電導材料(MgB2)を薄膜化し、高周波アンテナ素子へ適用することを検討してきました。この材料は金属系の超電導材料では最も高い転移温度である−234℃で超電導状態に変化します。また、金属系の超電導材料であるため、低温で合成可能であり、基板となる材料を広く選択できる長所があります。しかし、硼素(B)にマグネシウム(Mg)という蒸発しやすい材料を組み合わせるため、超電導薄膜の作製、および加工において、高度な技術が必要でした。
今回、日立は島根大学の久保衆伍教授の研究グループで開発したMgB2薄膜を用いて、リング状に加工したアンテナ素子を試作し、液体ヘリウム温度での共振特性の評価実験をしてきました。その結果、NMR計測に必要となる周波数帯域で、鋭い共振ピークを示す特性を得ることに成功しました。これにより、世界ではじめてMgB2が高周波アンテナ素子へ適用可能であることが明らかとなり、超高感度NMR装置の実現に向けた道が拓かれました。
今後、日立はアンテナ素子の集積化により高感度化実証を進めていきます。また、超高感度NMR装置の実用化に向けた研究開発を推進していく予定です。
なお、本研究開発は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の平成15年度産業技術実用化開発補助事業「MgB2等新超電導体を用いた超高感度核磁気共鳴分析装置の開発」の一環として行なわれたものです。この事業は、日立と、愛媛大学遺伝子実験施設 森田助教授が開発の中核となり、東京理科大学、鹿児島大学、島根大学、茨城大学、九州大学の協力を得て開発を進めています。
用語説明 |
*1 |
核磁気共鳴(NMR)装置:(NMR:Nuclear Magnetic Resonance) |
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強力な静磁場中に設置した試料に、高い周波数の電磁波を照射し、試料の原子核からの信号を検出することで物質の性質を解明する装置。(i)磁場を発生する磁石(多くの場合超電導磁石)、(ii)信号を検出するプローブ、(iii)信号の送受信を制御する計測部、から構成される。近年は分子量の大きなタンパク質の立体構造を決定する有力な計測装置として注目されている。
今回開発した高周波アンテナ素子はプローブの要素素子として用いられる。 |
*2 |
新超電導材料二硼化マグネシウム(MgB2): |
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2001年青山学院大学秋光純教授のグループによって超電導性を示すことが発見された。電気抵抗が0となる超電導転移温度は−234℃と金属系超電導材料の中では最も高い。また、構成元素であるマグネシウム、ホウ素は天然鉱物として豊富にあるため安価である。以上の特長から、低コストで超電導技術の実用化が可能な物質の候補として注目されている。 |
*3 |
共振特性: |
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回路もしくはアンテナ素子において、ある特定の周波数の電磁波が振動する現象を共振現象という。共振現象はラジオやテレビの送受信にも応用されている。特定の周波数のことを共振周波数と呼び、共振周波数近くにおける電磁波振動の様子を示すのが共振特性である。
NMRの場合、鋭い共振ピークが得られるアンテナ素子ほど感度が高い。 |
以上