日立製作所中央研究所と東北大学科学計測研究所は、直径80ナノメートルの円柱状磁性微粒子を
規則的に配列した磁性微粒子アレイを作製し、個々の微粒子の磁化を反転させて、1微粒子あたり
1ビットの磁気記録を行うことに成功しました。
今回の記録密度は6.45平方センチメートルあたり30ギガビット(30ギガビット/平方インチ)に相
当します。今後、1微粒子のサイズを小さくすることで、6.45平方センチメートルあたり1テラビッ
ト(1テラビット/平方インチ)を上まわる記録密度の実現が期待できます。
ハードディスクドライブ(HDD)の面記録密度は、現行製品で6.45平方センチメートルあたり約
10ギガビット(10ギガビット/平方インチ)、年率60〜100%の高密度化により、2,005年頃には
100ギガビットに到達すると予想されます。この記録密度は、記録磁化が媒体面内を向く現在の面
内記録(長手記録)方式から、記録磁化が媒体面に対し垂直方向を向く垂直記録方式にすることで
さらに向上すると考えられています。
記録膜として多結晶磁性連続膜を用いる現在のHDDでは、面内/垂直のいずれの記録方式にお
いても、ビット境界がサイズや形の不規則な結晶粒の境界を走って不規則なジグザグ状となり、こ
れが再生信号の雑音の原因となります。このため、記録密度の向上には記録膜の結晶粒を微細化し、
直線的なビット境界を得る必要があります。しかし、結晶粒が小さくなってそのサイズが数ナノメ
ートル以下になると、熱揺らぎによる磁化の不安定性から、時間経過と共に記録情報が失われると
いう問題が生じます。また、再生信号に必要な信号/雑音比を確保するためには、1ビットあたり少
なくとも十個程度以上の結晶粒が必要となり、これらの制約から連続膜を用いたHDD記録密度に
は、いずれ限界が来ることが予測されます。
この限界を打破する新しい記録媒体として、形状や大きさを人工的にそろえた単一磁区の微粒子
をアレイ状にならべ、この1微粒子を1ビットして記録を行なうパターンドメディアの研究が行なわ
れています。従来の連続膜中の結晶粒と異なり、パターンドメディアの微粒子は同形状、同サイズ
でしかも規則的に配列しているため、1微粒子を1ビットとして記録を行っても再生信号に必要な
信号/雑音比が確保でき、原理的には熱安定限界の体積を有するサイズまで微粒子を小型化して、
高密度記録を行なうことが可能といえます。
今回、日立製作所中央研究所と東北大学科学計測研究所(磁気機能計測分野)は、垂直磁気異方
性を有する磁性微粒子を規則的に、6.45平方センチメートルあたり30ギガ個(30ギガ個/平方イン
チ)配列した磁性微粒子アレイを作製し、熱磁界記録によって1微粒子単位で磁化反転させること
に成功しました。これは1微粒子あたり1ビットの磁気記録を意味し、世界で初めてパターンドメデ
ィアにより、6.45平方センチメートルあたり30ギガビット(30ギガビット/平方インチ)の高記録
密度を実現しました。
本技術の特徴は以下の通りです。
(1) 非磁性膜上の垂直磁気記録膜を電子線描画と物理的エッチングによって加工し、磁性微粒子
アレイを作製しました。アレイの周期は150ナノメートル、各微粒子は直径80ナノメートル、
高さ44ナノメートルとなっています。
(2) 各微粒子の磁化反転には磁気力顕微鏡(MFM)を用い、熱磁界反転法によって実現しまし
た。これは、アレイを磁気力顕微鏡の試料台に取り付けて探針と微粒子間に電流を流し、磁
化反転が容易に起こる状態に微粒子の温度を局所的に上げ、磁化と逆方向の磁界によって磁
化反転を実現したものです。
今回の成果は原理を実証した段階で、実用化には媒体の低コスト大量生産プロセスの開発、専用
記録再生ヘッドの開発など多くの課題が残されています。しかし今後、直径10ナノメートル以下の
熱安定限界に近い磁性微粒子が作製できれば、原理的には6.45平方センチメートルあたり1テラビ
ット(1テラビット/平方インチ)を大きく上まわる記録密度実現への道を開いたものと言えます。
この成果は10月6日より北九州市で開催される日本応用磁気学会学術講演会で報告されました。
【用語】
(1) 磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic ForceMicroscope):走査プローブ顕微鏡の一種で、
探針に強磁性体を用い、試料からの漏れ磁界と探針との間に働く磁気力を検出して磁区像を
得る。
以 上
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