日立製作所 計測器グループ(グループ長&CEO 猪俣 博)は、このたび、含水試料でも前処理なしで観
察・分析できる走査電子顕微鏡「S−3500N」の低真空モードの分解能を、業界最高の4.5ナノメーター
(nm)に向上して、平成11年5月24日より販売を開始します。
「S−3500N」は、食品や生物試料などの水を含んだ試料(含水試料)を形状、組成などを変えずに生の
ままで像観察をしたいというニーズに応え平成8年12月に製品化しました。今回、シンチレータ(注1)と
呼ばれる部分を改良した新しい検出器の採用により、低真空モードによる分解能を当社従来製品の5.0nm
から4.5nmに向上し、主に食品や人体、動物などの微細構造など研究・実験のための観察向けに、より高倍
率で鮮明な含水試料の観察像を提供できます。
近年、走査電子顕微鏡(以下SEM(Scanning Electron Microscope))は、半導体、バイオ、材料、食品、
繊維など多種多様な分野で、製造業における品質管理、研究機関における研究開発など幅広く活用されていま
す。当社では、半導体の線幅などの計測に特化した測長SEM、バイオ、材料を中心に主に研究開発向けに
用いられているFE-SEM(注2)、幅広い分野で用いられる汎用SEMを販売しており、測長SEM、
FE−SEMについては世界のトップシェアです。
SEMは、細い電子ビームを試料に当てて、試料から出てくる電子を検出して像を描きます。電子ビーム
が試料に当たったとき、試料からとび出してくる弱いエネルギーしかもたない電子(2次電子)を検出するため
には、試料室内を10-4パスカル(Pa)(注3)レベルの高真空の状態に維持する必要がありました。し
かしながら、高真空では含水試料は急激な乾燥により変形するため、食品や生物では煩わしい前処理が必要
でした。
また試料からは、2次電子が出てくるのと同時に、電子ビームが試料表面にぶつかって反射した電子(反射
電子)が発生しています。この2種類の電子は、エネルギーが異なるため、別々に検出することが出来ます。
反射電子は、低真空でも検出することが可能であり、当社では、この原理に着目し、試料室をより大気圧に
近い低真空(〜270Pa)に設定(低真空モード)することにより、含水試料の形を変えずに観察できるよう
に製品化したものが「S−3500N」です。今回の改良では、低真空モードで4.5nmの業界最高の分解能
を実現しております。
当社では今後、新しい検出器を採用した「S−3500N」を食品、バイオ分野を中心に販売し、初年度200
台の受注を目指しています。
(注1)シンチレータ: モニタに映し出されるSEM像は、細い電子ビームを試料に当てて、試料から出て
くる電子を検出し、その電流を増幅することにより得られます。 シンチレータとは、電子の量を効率的に増
幅する部分です。
(注2)FE(Field Emission:電界放出)-SEM:電子線を発生する電子源に電解放出型という方式を採
用しているSEM。この方式によって電子線を細く絞り、高分解な像観察が可能になります。
(注3)パスカル(Pa):圧力の単位。1パスカルは、1平行メートルに1ニュートンの力が作用する時
の圧力。なお大気圧は、約10万パスカル。
■価格および出荷時期
製品名 価格 出荷時期
走査電子顕微鏡 2,550万円〜 平成11年8月31日
S−3500N(高分解能版)
■ 主な仕様
反射電子分解能(低真空モード) 4.5nm
2次電子分解能 3.0nm
倍率 15倍〜30万倍
最大試料サイズ φ150mm
以 上
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