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News Release

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平成9年7月10日

世界で初めて、光を利用したてんかんの検査方法を開発

−無侵襲な検査により、被検者の負担を大幅に低減−

                                                      東京警察病院
                                 株式会社日立製作所


    
 東京警察病院脳神経外科と日立製作所は、このたび、世界で初めて、光を利用し
た無侵襲な脳計測により、てんかんの発生場所を発見する方法を開発しました。本
検査方法は、微弱な近赤外線(*1)を頭皮上から照射して脳内の2次元画像を得る
「光トポグラフィ(*2)」を利用し、てんかん発作に伴う脳内の異常活動を検知す
るものです。
 今回、本検査方法で計測したてんかん発作時の血液量の増加部位が、従来検査方
法によるてんかん焦点位置と一致することが確認されたことで、患者に負担の少な
いてんかん検査方法の道を拓くことになります。

 現在、投薬でも治療困難な難治性のてんかんの場合、外科手術により脳内のてん
かん発生場所(てんかん焦点)を除去する治療が採用されており、その際には除去す
べき焦点位置を明らかにする必要があります。しかし、通常てんかんなどの脳の病
気を検査するためには、脳波計が頻繁に用いられるものの、空間分解能が低く、左
右どちらの半球に位置するかを決定することが困難な例が多数あります。
 そこで、現在では、てんかん焦点位置を調べるために、以下の2つの方法が採用
されています。
(1)手術により頭蓋骨を開け、大脳の表面または脳の深部に電極を複数挿入し、発
    作中の脳波パターンの空間分布を計測。
(2)血液中に放射性同位元素を注射するSPECT(*3)を用いた核医学的な画像検
    査により、発作中における脳内血液量変化の空間分布を計測。
   しかし、これらの方法では、あらかじめ手術の必要や放射線被曝の問題がある
    など、患者の負担が極めて大きいという問題点がありました。そこで、患者に
    負担をかけず、てんかん焦点位置を検査する方法が望まれていました。

 東京警察病院と日立は、このようなニーズに対応し、共同で近赤外分光法を利用
したてんかん焦点診断に取り組んできました。近赤外線は、人体に対する透過性が
比較的高く、頭皮・頭蓋骨を透過して、大脳で反射した光を効率よく検出できます。
そして、血液中に含まれる色素タンパク質であるヘモグロビンの光吸収特性を利用
し、脳の活動に伴う血液量の変化を計測することが可能です。今回、日立はこの原
理を応用し、てんかん発作時の脳内血流変化を左右同時に、リアルタイムで画像計
測可能な多チャンネルてんかん検査装置を開発しました。


 さらに、東京警察病院では、てんかん焦点決定の検査の際に本検査方法を導入し、
発作時における左右大脳半球での脳内血流変化を計測しました。そして、7症例に
関して、従来検査方法と比較した結果、臨床的な有効性を発見しました。
 具体的には、本検査方法で計測した発作時の血液量の増加部位が、大脳表面電極
または脳深部電極脳波、SPECT検査などの従来検査方法によるてんかん焦点位
置と一致することが明らかになりました。
また、てんかん発作時における脳内血流の時間的変化の計測が可能であることも確
認できました。
7症例の結果は、(表1)の通りです。

(表1)本技術と従来技術および最終診断結果比較
           最終診断  従来技術(SPECT)   本技術
症例1       右          右              右
症例2       左          不明             左
症例3       左          左              左
症例4       右          右              右
症例5       左         左(差小)          左
症例6       左          左              左
症例7       右          右              右

 本検査方法の実現により、左右半球のどちらにてんかん焦点があるかを無侵襲で
知ることができ、今後、測定範囲を広げて脳全体を検査することで、深部電極検査
を行わなくても良い可能性があります。
  さらに、従来観測不可能であったてんかん発作中の脳内血流の時間変化を解析で
きるため、病理解明の重要な手法となり、将来的には、患者に負担をかけず、てん
かん焦点位置の検査を実現します。

 今回、世界で初めて、光を用いたてんかん焦点検査装置の有効性を確認しました
が、今後、患者に負担をかけずに簡便に脳内の血流の動きを測定できる「光トポグ
ラフィ」の特徴を生かして、種々の脳疾患や脳機能検査への応用を進めていく予定
です。

 なお、本成果は7月16日から仙台で開催される日本神経科学大会で発表する予
定です。

(注)
(*1)近赤外線:
 波長800nmから2000nm程度の光を表します。波長800nm付近では、
  個人差があるものの、光の色はうっすらと赤く見える場合があります。近赤外線
  は、可視光や赤外線に比べて生体を透過しやすい性質を持っています。
(*2)光トポグラフィ:
 光を用いて脳内の二次元画像を得る技術です。光は光ファイバを用いて照射、検
  出を行います。脳機能を画像として計測するために、二次元的に光ファイバを配
  置し、各位置に対応した反射光を同時計測するようにしています。装置は操作が
  簡単で持ち運び可能なため、検査場所の制約を受けず、ベッドサイドで検査を行
  うことが可能です。
(*3)SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単光子断層撮影):
 放射性同位元素でラベルした物質を注射し、生体内の特定部位で集積された量を
  外部の放射線検知機で検出します。




                                                          以 上


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