筑波大学
株式会社日立製作所
筑波大学の臨床医学グループ(代表:三井利夫教授(医学専門学群長))と日立製作
所は、このたび、胎児の心臓が発する微弱な磁気を母親の信号と分離して測定し、
胎児の心臓疾患を数分で検査できる技術を共同で開発しました。高感度のSQUID
(*1)(超電導量子干渉素子)磁気センサーを利用して、母親のお腹の上から体に触れ
ずに、胎児の心臓の活動に伴って発生する磁場を計測するもので、胎児や母親に全
く負担をかけずに、心電図以上に感度の良い信号が得ることが可能です。この検査
方法の実現により、出生前診断の道を拓くことになります。
なお、今回利用したSQUIDは、基盤技術研究促進センターの出資会社である超伝
導センサ研究所(*2)で開発されたものです。
現在、胎児心臓病の診断に最も広く用いられているのは超音波検査法です。しか
し、超音波を用いると、心臓の形やおおまかな動き、血流を評価することは可能な
ものの、心臓の筋肉の活動に直接係わる心電図や心磁図といった電気生理的な情報
を得ることは不可能でした。また、腹壁心電図という母親のお腹の上に電極を貼り、
胎児の心電図をとる試みも行われていますが、胎児の信号が微弱な上に、母体の心
電図との分離が難しく、十分な解析はできませんでした。
今回開発した検査方法は、磁気センサに超電導現象を利用したSQUIDを用い、胎
児の心臓から発生する微弱な磁場(心磁)を母親のお腹の上から計測するものです。
本方法では、羊水や胎脂の影響をほとんど受けず、心電図よりも解像度の良い信号
を得ることができます。
また、母親の心磁の影響を少なくし、かつ胎児の心磁を正確に捉える工夫を凝ら
したセンサを新たに開発しました。一般的に、胎児の心臓は体の表面から約6cm程
度の位置にあるため、今回はセンサを高感度化し、従来よりも深い位置での感度を
高めました。なお、本方法を利用し、双子の心臓を別々に計測することも可能です。
胎児の心磁図は、早ければ妊娠20週頃から記録できるため、胎児心臓病の早期
発見に道を拓き、出生前治療や出生直後の早期治療に役立てることが可能となりま
す。
なお、本成果は7月10日から京都で行われる「第33回日本小児循環器学会」
で発表する予定です。
(注)
(*1)SQUID(Superconducting Quantum Interference Device):
非常に微弱な磁気に応答する超電導現象を利用した磁気センサ。本研究では信
頼性が高く高感度な、液体ヘリウム温度で動作するLow-Tc SQUIDを用いていま
す。
(*2)超伝導センサ研究所:
高度生体磁気計測システムの開発を目的として、1990年から1996年に
かけて、基盤技術研究促進センターのもと、企業10社の共同出資で設立され
た会社。
以 上
|