| HITACHI HOME | UP | SEARCH | |
このニュースリリース記載の情報(製品価格、製品仕様、サービスの内容、発売日、お問い合わせ先、URL等)は、発表日現在の情報です。予告なしに変更され、検索日と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。なお、最新のお問い合わせ先は、
お問い合わせ一覧をご覧下さい。
平成7年12月8日日立製作所は、微弱な赤外線を頭部に照射し、反射強度を測ることにより 光センサーを頭部にあてるだけで
脳の活動状態を計測・画像化できる技術を開発−携帯型の計測装置が実現可能に−
頭蓋骨の内側にある大脳皮質の活動状態を計測・画像化する、全く新しい計
測概念を用いた「光トポグラフィ(注1)技術」を世界で初めて開発しました。
この技術を用い、東京警察病院脳神経外科と共同で、手の指の運動を司る脳
活動を画像化することに成功しました。この技術を用いた装置は、操作が簡
便で持ち運びできるため、検査場所などの制約を受けずに自然な状態で計測
することが初めて可能になります。
今後、脳研究を加速するとともに、それにより得られたデータをもとに、
医療・福祉分野での応用が期待されます。
大脳皮質は、頭蓋骨の内側にある厚さ2.5ミリ程度の薄い組織で、言語
・視覚・感覚・運動などを司っています。この大脳皮質を計測することによ
る脳機能の定量的な評価、さらに心などの精神活動を捉える科学的なアプロ
ーチが、活発に試みられています。特に近年、ヒトの脳活動を生体の外から
害を与えることなく計測する方法としてfMRI(注2)や脳内の磁場を利用
するMEG(注3)が開発され、脳機能に関する多くの知見が得られつつあり
ます。
今回当社中央研究所では、これらの方法と全く異なり、赤外線を用いる
「光トポグラフィ技術」を開発しました。この技術により、装置の小型、
簡便化が実現し、さまざまな場所、環境、条件で、被験者が自由に動き回
りながらも計測することが初めて可能となります。
懐中電灯の白い光を手で覆うと赤い光が透けてみえるように、生体内を光
が透過することはよく知られています。もし、脳の内部も光を透かして見る
ことができれば、大脳皮質の血液分布を調べることにより脳の活動状況を把
握することができますが、頭蓋骨に囲まれているため非常に困難です。
しかし、可視光より波長の長い赤外線に着目すると、ある波長の赤外線は
透過率が高く、頭皮・頭蓋骨を透過し大脳皮質内で反射した光が効率良く検
出されます。そして、血液に含まれるヘモグロビンの種類(酸化型・還元型)
によって、光の吸収率が異なる点を利用することによって、血液、および、
二種類のヘモグロビンの分布を画像化することが可能になります。
[実験方法および結果]
1.計測技術
赤外線は光ファイバより照射・検出を行ないます。照射された光信号は、
照射位置より2〜3センチ離れた位置で別の光ファイバを用いて検出します。
これは、大脳皮質に到達し反射するようにして出てくる信号が、照射位置よ
り2〜3センチ離れた場所に到達するためです。
脳機能を画像として計測するためには、頭皮上の複数の位置、すなわち多
チャンネルで計測する必要があります。そこで今回、光トポグラフィ専用の
12チャンネル計測技術を新たに開発しました。この技術では、二次元的(格
子状)に配置した9本の光ファイバによって光を照射・検出します。各光ファ
イバは照射および検出を電気的に切り替えることができ、照射・検出の位置
を順々に切り替えていくことで画像化に必要なデータが計測されます。
2.脳の活性化方法
脳を局所的に活動させるために、手の指の運動を行ないました。運動機能
に関して、脳の右側は左半身を、脳の左側は右半身を支配していることが知
られています。そこで今回は、脳の左側を計測対象とし、右手の指の運動に
よる脳の活動の画像化を目的としました。また、参照実験として、左手の指
の運動の場合も計測しました。
3.結果
指の運動による脳の活動を画像化した結果、左脳が大きく関与している右
手の指の運動では、血液量が局所的に著しく変化していることがわかります。
一方、左脳の関与の少ない左手の指の運動時には、血液量はあまり変化して
いません。このように、可視光では見ることができなかった脳の活動を、赤
外線を用いることで皮膚の上からあたかも透視するかのようにして見ること
ができました。
手の指の運動機能を支配する脳の場所は、脳の溝すなわち皺の位置から特
定することができます。そこで、計測した脳の活動部位を同一被験者の脳の
形を示すMRI画像と重ねて見ました。その結果、光トポグラフィで計測さ
れた活動部位は、解剖学的に手の指の運動機能の場所と一致し、今回の光に
よる計測で脳の活動が正確に計測されていることが確認されました。
今後は、言語や視覚など他の部位の計測を行なうとともに、計測領域の広
域化、空間分解能および計測速度など、装置性能の向上を図り、早期実用化
を目指します。
また、脳機能計測の適用例をさらに増やし、医療・福祉などへの具体的な
応用のための計測研究を進めていきます。
なお、この技術の詳細については、12月15日発行の米国物理学会
「Medical Physics」誌に掲載されます。
<用語説明>
(注1)トポグラフィ:二次元画像もしくは二次元画像計測法のこと
(注2) fMRI :磁気共鳴を利用した脳機能計測法 (functional
Magnetic Resonance Imaging)
(注3) MEG :脳の神経活動により生じる微小磁場計測法
(magnetoencephalography)
以 上