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2001年12月5日

 

 
モバイル機器に適したゲート長50ナノメートルのCMOS技術を開発
−新構造により高速、低電力、高周波特性を改良−
  日立製作所(社長:庄山悦彦)は、このたび、高速・低電力・高周波特性を併せ持つ、0.1μm世代に向けたゲート長50nmのCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)デバイス技術を開発しました。これは、低電力における高速動作と、アナログ・高周波アプリケーションで重要となる低ノイズ特性を「超急峻チャネル(Super Steep Channel)」構造によって実現し、また、高速動作を「オフセット・ソース・ドレイン」構造によって実現したものです。今後、需要が拡大するモバイル機器に適したCMOS技術として期待されます。


  近年急速に市場が拡大しているモバイル機器の高機能化には、システムLSIの高性能化が大きく寄与しています。モバイル機器向けシステムLSIの性能指標には、高速性と低消費電力性はもちろんのこと、無線通信応用ではアナログ・高周波特性が挙げられます。システムLSIを構成するCMOSデバイスの低消費電力化には、動作電源の低電圧化が効果的な方法ですが、逆に高速性が損なわれるという問題があります。これに加えて、従来のCMOSデバイスは“ノイズ”が大きいとう欠点があるため、安価で高集積可能であるにも関わらずアナログ・高周波アプリケーションに用いることが困難でした。しかし、今後益々高機能化が予測されるモバイル機器に向けて、低電力・高速動作に加え、高周波領域のノイズ特性に優れたCMOSデバイスの開発は必須の課題となっていました。

  このような背景から、この度、当社中央研究所とデバイス開発センタは共同で、0.1μm世代のCMOSプラットフォーム技術として、低電圧・高速動作かつ低ノイズ特性に優れたCMOSデバイス技術を開発しました。
  技術の特徴は次の通りです。
(1) 低電力動作と高周波特性を改善するチャネル構造:超急峻チャネル
低電圧での高速動作特性を阻害するチャネル領域(ソース、ドレイン間の電流が流れる領域)の不純物濃度を大幅に低減する“超急峻チャネル構造”を開発しました。これによって、低電圧領域での高速動作を可能にしました*1)。また、この構造は、トランジスタのノイズの原因となる電気的欠陥を防ぐことができる特徴を持っています*2)
(2) 高速動作を実現するトランジスタ構造:オフセットソース・ドレイン
デバイスのオン・オフを制御するゲートは、容量が小さいほど高速化が可能です。そこで、ゲート領域を制限するオフセットスペーサを設け、ゲート容量を低減し、高速動作を実現するオフセットソース・ドレイン構造を適用しました。

  本技術を用いて、ゲート長50nmのCMOSデバイスを試作したところ、従来比で約8%の高速化を実現しました。また、約6デシベルのノイズ低減*3)が可能であることを確認しました。今回の成果は、ゲート長50nmのCMOSデバイスにおける基本性能の改良を示した成果です。今後は、LSI化を進め、モバイル機器に適したCMOSプラットフォーム技術として完成度を高めていく予定です。

  なお、本成果は、12月3日から米国ワシントンD.C.で開催される電子デバイスに関する国際会議「2001 International Electron Devices Meeting」にて発表します。

【用語説明】

(1) 重イオンを用いた不純物分布最適化による低電圧・高速動作特性:トランジスタを低電圧領域で動作させる場合、キャリア(電子や正孔)の移動度が動作速度の決め手となります。キャリアはチャネルに存在する不純物により移動度の低下を招くため、Si基板表面への不純物拡散を防ぎながらチャネル領域を形成する必要があります。今回、拡散しにくい重イオンを用いてチャネル領域に超急峻な不純物分布を制御性良く作り込むことで、表面への不純物拡散を防止し、低電圧・高速動作を実現しました。
(2) ノイズ発生原因の低減による低ノイズ化:トランジスタの1/fノイズ発生要因として、ゲート絶縁膜中のトラップ準位*4)と、チャネル不純物があります。超急峻チャネル技術では、ゲート絶縁膜を形成する前段階でチャネル領域へのイオン注入を行い、パンチスルーストッパーを形成します。従来のゲート絶縁膜形成後にゲート脇からイオン注入する方法に比べ、ゲート絶縁膜に発生するトラップ準位を減らすことができ、またチャネル不純物濃度を低くできるため、1/fノイズの低減が可能となりました。
(3) 6デシベル低減=約1/2の低減
(4) トラップ準位:ゲート絶縁膜(シリコン酸化膜:SiO2)を不純物が通過する形でチャネル領域にイオン打ち込みを行った場合、打ち込まれた不純物によりSiO2の結合が切断され、電気的に不安定な結合手が生じ、これをトラップ準位という。トラップ準位はチャネルを流れる電流を形成している電子や正孔を捕獲したり放出し、電流値の微小なばらつきの要因となる。

以 上




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