日立概要ページへ トップページへ
日立の概要 ニュースリリース トップページへ

このニュースリリース記載の情報(製品価格、製品仕様、サービスの内容、発売日、お問い合わせ先、URL等)は、発表日現在の情報です。予告なしに変更され、検索日と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。なお、最新のお問い合わせ先は、お問い合わせ一覧をご覧下さい。

 
2001年5月29日
 
単一磁束量子回路で100ギガヘルツのA/D変換基本動作を確認
--  高温超電導A/D変換器の実現に目処  --
  日立製作所基礎研究所(所長:長我部信行)は、このたび、高温超電導体によるアナログ/デジタル(A/D)変換器の変調器(フロントエンド回路)を試作し、絶対温度20度(20K)において世界で初めて100ギガヘルツ(GHz)の高速動作に成功しました。これは、高速化の鍵となる「ジョセフソン接合」を世界最高レベルの性能で実現し、「低抵抗素子」と集積したことによるものです。高温超電導体を用いた実用回路の第一歩として、高温超電導A/D変換器の実現に道を拓く成果です。
  本研究は、経済産業省のプロジェクトである超電導応用基盤技術研究体の研究として、(財)国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)を通じて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて実施したものです。

  超電導現象に基づく単一磁束量子(注1)は、幅が数ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)の電圧パルスとして伝搬するため、これを利用した数十〜百GHzという超高周波帯域で動作する回路の実現が期待されています。しかし、実用上は、回路の基本要素であるジョセフソン接合の特性ばらつきや熱雑音の影響、高温超電導回路に適した低抵抗素子の作製技術など多くの課題が障壁となり、これまで限界性能に近い高速での動作は実現していませんでした。
  これらの課題を解消し、高速超電導回路を実現することを目的として、当社基礎研究所では、1998年度より、ISTECがNEDOより受託して実施している「超電導応用基盤技術研究開発プロジェクト」(プロジェクトリーダ:田中昭二 超電導工学研究所長)に参画し、ジョセフソン接合の作製技術や単一磁束量子回路の開発に取り組んできました。今回、単一磁束量子回路の実用化を加速する観点から、最も汎用的な回路であるA/D変換器を研究対象とし、その基本となるフロントエンド回路である変調器を試作しました。

  試作した回路は、サンプリング信号生成回路と変調器(比較演算回路+積分器)から構成され、合計13個のジョセフソン接合を集積しています。また、比較演算回路は4個のジョセフソン接合で構成され、積分器を介して入力されるアナログ信号とサンプリング信号の和がしきい値よりも大きくなると、磁束量子電圧パルスを1ビットのデジタル信号として出力します。今回、20Kにおいて比較演算回路を構成するジョセフソン接合の電圧を測定した結果から、サンプリング周波数100GHzで正常動作していることを確認しました。この高速動作回路は、次の回路作製技術によって実現されたものです。
(1) 超電導材料の高品質化による、特性ばらつき6%という、世界トップの均一なジョセフソン接合の実現。
(2) 超電導電極との接触抵抗を抑制する新構造による100ミリオーム以下の低抵抗素子の実現。
  高温超電導体を用いた単一磁束量子回路において、20K で100GHz の高速動作を確認したのは、これが世界で初めてです。

  本成果によって、A/D 変換器のうち、その基本部分であるフロントエンド回路が100GHz動作することを実証できました。今後は、後段のデジタル回路を開発し、A/D 変換器の実現に向けて研究を推進する予定です。すでに、後段回路の作製の基本技術である、超電導グランドプレーン上にジョセフソン接合を集積化する技術の見通しを得ています。すなわち100接合レベルの集積において、必要条件となる特性ばらつき1シグマ8%以下を一部実現しました。さらに、ジョセフソン素子特性の一層の向上をはじめ、超高速回路に適した素子構造形成技術も併せて開発し、通信や計測分野での実用を視野に入れた超電導A/D 変換器の実現を目指します。

  本研究の成果は、6月19日から大阪で開催される「国際超電導エレクトロニクス会議(ISEC2001)」で発表する予定です。

【高温超電導回路を実現した技術の詳細】

(1) ジョセフソン接合の作製条件の最適化による素子高性能化:現在のところ、最も性能ばらつきが小さく、基板上に自由に配置できる特長を持つ表面改質型ジョセフソン接合(注2)の作製条件をさらに最適化し、接合の性能指標であるIcRn積(Ic=臨界電流、Rn=常伝導抵抗。値が大きいほど高速動作が可能。)を20 Kで0.7mVにまで向上させ、100GHz動作を可能にしました。また、薄膜形成時の基板温度の均一化により、接合特性の分散の標準偏差1シグマを、100接合において6%台にまで低減し、小規模回路の作製を可能にしました。
(2) 抵抗素子の集積化技術:入力信号に対する感度を高めるために、集積化する抵抗素子の抵抗値を100ミリオーム以下とする必要がありました。今回、抵抗素子作製過程において、加工に伴う素子表面の汚染を防止し、抵抗値削減のための作製プロセスを開発しました。これにより、抵抗値20ミリオームの抵抗素子を実現し、回路への適用が可能となりました


【用語の説明】
(1) 単一磁束量子回路:情報の担体に磁束量子を用い、磁束量子の有無を情報の1、0に対応させる回路。超電導体で構成される閉回路、SQUID(量子干渉型デバイス)などでは、磁束量子と呼ばれる磁束量を基本単位として、磁束が存在し得る。磁束量子は物理定数であるプランク定数hを素電荷e の2倍で割った値(h/2e =2.0678x10-15Wb)で定義される。
(2) 表面改質型ジョセフソン接合:下部超電導電極の斜面をイオンビームなどにより非晶質化したのち、加熱して再結晶化させて、これをジョセフソン接合の障壁層とした接合。現在ある高温超電導ジョセフソン接合の中でもっとも特性ばらつきが小さく、基板上に自由に配置できる特長がある。

以 上




top of this page


(C) Hitachi, Ltd. 1994, 2001. All rights reserved.