日立製作所中央研究所(所長 武田英次)は、CMP(化学機械研磨)を用いた半導体デバイスの
銅配線の平坦化工程において、完全砥粒フリー技術を開発しました。CMPの砥粒フリー化により、
長年の課題であったエロージョン(*1)やディシング(*2)と呼ばれる“削れ過ぎ”を従来の
約1/5(50nm)以下に抑制できたほか、研磨傷(スクラッチ)などが飛躍的に減少した結果、絶
縁耐圧の信頼性は従来の技術に比べ約1万倍向上しました。本技術は、当社の高速プロセッサで実
用性が確認されており、今後銅配線のCMP工程における標準化技術になるものと期待されます。
高速半導体デバイスの配線材料は、従来用いられていたアルミニウム合金と比べて電気抵抗率が
約半分であるため、LSIの高速化に有利な銅へと移行しつつあります。この傾向を加速したのは、銅
のドライエッチング加工が難しいという課題を克服したダマシン法の実現によるものでした。ダマ
シン法とは、絶縁膜に溝加工を施し、そこに配線材料となる銅をメッキ等の方法で埋め込み、溝外
部の余分な銅薄膜をCMPによって除去することにより配線を形成する技術です。しかし、従来のCMP
では硬度の高いアルミナやシリカ等の砥粒を含む研磨液を用いて銅薄膜を研磨していたため、密集
配線部で削れ過ぎたり、スクラッチが発生するという問題がありました。
そこで、日立製作所中央研究所では、研磨砥粒を全く含まない化学薬品だけの研磨液で銅を研磨
する技術の開発に着手しました。この結果、酸化剤、防食剤、エッチング剤で作られる研磨液の成
分を最適化することによって、砥粒が全く無い研磨液であっても、銅の平坦化加工が実現できる技
術を開発しました。開発した研磨技術は、従来と同じCMP装置と研磨パッド(発泡ポリウレタン製)
をそのまま利用して、今回開発した砥粒フリー研磨液を用いることによって実現できます。また、
従来の砥粒の凝集・沈殿に伴う研磨剤の特性変化の問題もなく、非常に安定な研磨プロセスが構築
できるので生産管理の面でも大きな利点があります。開発したCMP技術を評価した結果、エロー
ジョンやディシングと呼ばれる“削れ過ぎ”を従来比の約1/5(50nm)以下に抑制できたほか、
研磨傷が飛躍的に減少した結果、絶縁耐圧の信頼性は従来技術に比べ1万倍向上しました。また、
砥粒の管理や洗浄にかかるコストを低減できるほか、従来の研磨剤のように多量の産業廃棄物を排
出しないために、環境にも貢献するものです。
本技術は、銅配線を搭載した当社の高速プロセッサにこの技術を適用し実用性を確認しており、
今後銅配線のCMP工程における標準化技術になるものと期待されます。また、今回開発された砥
粒フリー研磨液は日立化成工業(株)から商品化される予定です。なお、本技術は6月5日からサ
ンフランシスコで開催される国際配線技術学会(IITC2000)にて発表されます。
■本技術の特徴
(1)高度平坦性;エロージョンやディシングと呼ばれる “削れ過ぎ”を50nm以下に低減できるた
め(従来比;約1/5以下)、設計通りの配線寸法に加工することができます。特に、高速プロセッ
サでは6〜9層の積層配線を形成しますが、この際に平坦性の高い当技術は非常に有効となります。
(2)ダメージフリー;銅研磨面にスクラッチがほとんど発生しないため、CMP工程における歩留ま
りが格段に向上しました。また、配線間の絶縁膜表面に生じる欠陥ダメージも抑制されるため、従
来法でCMPを行った場合と比較して、絶縁耐圧寿命は1万倍まで向上することがわかりました。
(3)低コスト化;砥粒の凝集・沈殿を防止するための研磨剤管理、廃液処理、クリーン度維持、
洗浄性能の管理等にかかるコストを削減することが可能になります。
(4)低環境負荷;これまで砥粒廃液は産業廃棄物として特別に処理していましたが、砥粒フリー
研磨液は従来の洗浄液と同様な中和処理等で廃棄することが可能になります。
(5)クリーンルーム内発塵抑制;従来はCMP装置からの砥粒発塵が問題となっていましたが、砥粒
フリー化によりCMP装置を一般的なウエット装置と同様に扱うことができます。
■補足
ダマシン銅配線は、最終的に厚さ30nm程度のバリア金属膜(*3)を除去することによって完
成します。これに対しては、従来と同様な砥粒研磨剤を用いて除去するプロセスと、ドライエッチ
ング法によって除去する完全砥粒フリープロセスの二方式を開発しています。いずれを用いても非
常に安定なダマシン配線プロセスが実現できることを確認しました。その理由は、銅の研磨に砥粒
フリー研磨液を用いると、バリア金属膜表面でCMPが自動的に停止し、完全に銅を除去した後に薄
いバリア金属膜のみを選択的に、かつ短時間で除去できるからです。
■用語説明
(*1)エロージョン;CMPで本来研磨されてはいけない絶縁膜の部分が研磨されること。密集配
線や太幅配線で起りやすい。
(*2)ディシング;CMPで本来研磨されてはいけない配線部の銅が皿のように凹んで研磨される
こと。太幅配線で起りやすい。
(*3)バリア金属膜;銅が絶縁膜中に拡散してデバイス動作不良を起さないようにするため、30nm
程度の厚さの窒化タンタル膜等を銅薄膜の下地に形成する。
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